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2008.06.10

派遣労働者保護の観点から

◆派遣先が配慮すべき雇用契約申込義務
 派遣労働者への雇用契約の申込義務は、①一般的派遣業務(所謂、専門26業務等以外の業務)で抵触日以降の労働者派遣停止の通知後の使用継続の場合の雇用契約申込義務(労働者派遣法第40条の4)※1)、②派遣受入期間の制限がない業務(政令で定める業務として掲げる26業務)等での派遣期間3年経過後の雇用契約申込義務(同法第40条の5)、③一般的派遣業務での1年以上の派遣期間終了後の雇用努力義務(同法第40条の3)、の3つの雇用に関する義務が定められています。但し、③については、雇用努力義務が生じるのは、同一の業務について派遣労働者を受け入れていた期間継続して従事した派遣労働者に対してのみ生じる優先雇用の努力義務で、当該派遣労働者が、(a)派遣期間終了日までに、派遣先に雇用されて同一の業務に従事することを希望する旨を派遣先に事前に申し出ていること、及び(b)派遣期間が終了した日から7日以内に派遣元事業主との雇用関係が終了したこと、という2要件を満たした場合に限ります。
◆独・仏の「みなし雇用制度」
 前記の雇用契約申込に係り、派遣先が故意に雇用契約の申込みをせず、違法に継続派遣がなされた場合に、所謂「みなし雇用(推定雇用)」になるのかという点は議論の一つとなっています。因みに現在、ドイツとフランスでは、「みなし雇用制度」を採用しており、ドイツは、その労働条件として、「派遣元及び派遣先間で予定されていた労働時間、その他は派遣先の諸規定によることを原則として正当な理由がある場合は有期」とし、フランスは、「期間の定めのない労働契約」とし、当事者の意思に関りなく、派遣先と派遣労働者の間に雇用契約が成立するという仕組みになっています。このように、無条件に雇用契約成立とするのは違法派遣だからこそなのかもしれませんが、当事者の意思が無視されて雇用関係が成立してしまう点は、抵抗が皆無と言い難いところです。
◆2つの「意識調査結果」から
 わが国において、非正規雇用社員が対全雇用者の約3割(平成18年労働力調査)を占めてから増加傾向(平成20年1~3月期基本集計結果)にある現在、非正規雇用社員を取り巻く変化として、パート・アルバイト・契約社員・派遣・請負等々、雇用形態は多様化しており、就労意識も、①「正規雇用社員への登用を希望し、正規雇用社員と同様に働く意欲のある非正規雇用社員」と、②「責任ある立場を好まず、定型業務に従事したい層」に二極化している※2)という現状があります。当該調査結果からは、派遣労働者自身が、派遣労働をやめて常用雇用になりたいと考えている労働者ばかりではないことがわかります。
 また、後掲※3)の意識調査によると、「正社員とほとんど同じ仕事をしている非正社員がいる事業所」は約6割で、非正社員から見て、「会社内に自分とほとんど同じ仕事をしている正社員がいる」とするのは約5割という結果から、非正社員が正社員とほぼ同じ仕事に従事しているのがわかります。一方、賃金面で「自分の時間当たり賃金が低いと認識しているもの」は6割強で、その内の6割弱は「自分の賃金に納得していない」と回答しており、前掲調査結果のとおり、意識の二極化で「非正社員のままでいたい」とは言うものの、現状の賃金に満足していない点は、本人の意識と裏腹の結果で現実的な面を露呈しています。
◆派遣労働者の雇用の安定を
 冒頭に、雇用契約の申込義務を記したのは、派遣先が派遣労働者の雇用に配慮しなければならない場合で、派遣労働者保護の観点に立つ一例と考えたからです。そもそも、規制緩和により労働者派遣法が制定されたのは、「ILO181号条約(1997年6月ILO総会採択。民間職業仲介事業所条約)」の批准(1997年7月)に拠るものであることを鑑みると、当条約の「民間職業仲介事業所のサービスを利用する労働者の保護」の規定に則り、今後の労働者派遣法改正による規制緩和は、派遣労働者の現状を踏まえた雇用の安定に資するものであることが望まれます。「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」※4)では、「派遣労働者の雇用の安定について」というテーマの下、①『登録型』『常用型』の在り方、②日雇派遣の在り方、③期間制限等、④雇用契約申込義務等について議論されており、今秋といわれる労働者派遣制度改正の動向が注目されるところです。
※1)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関すね法律(昭和60年7月5日法律第88号制定。昭和61年7月1日施行)
※2)「非正社員のための『働き甲斐のある職場作り』に向けた非正社員意識調査」日本能率協会総合研究所。
※3)「多様化する就業形態の下での人事戦略と労働者の意識に関する調査結果(事業所及び従業員調査。平成18年7月14日)」独立行政法人労働政策研究・研修機構。
参考:「日本が批准したILO条約一覧」国際労働機関駐日事務所資料。※4)「第6回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会(平成20年5月30日)」厚生労働省職業安定局資料。「派遣元責任者必携2007年版Ⅱ労働者派遣法(社団法人日本人材派遣協会編著)」社)財形福祉協会。「労働者派遣法の改正点と実務対応(安西愈著)」労働調査会。「人事・労務管理シリーズⅣ―労働者派遣編―派遣を使う、活かす。ここがポイント(社団法人全国労働基準関係団体連合会編著)」労働調査会。