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2008.05.28

「労災かくし」は、コンプラ違反そのもの

 事業者は、労働者が労働災害により負傷した場合等、①休業4日以上の労働災害により労働者が死傷した場合には遅滞なく、また、②休業4日未満の場合には3ヶ月ごとに、労働者死傷病報告※1)を所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません※2)。前者①の場合は、労災保険給付※3)の請求であり、後者②の場合は、労災保険によってではなく、使用者が労働者に対し、休業補償を行わなければならないことになっています。
 にもかかわらず、故意に労働者死傷病報告を提出しないとか、または、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署に提出するという、所謂、「労災かくし」が後を絶たないのが現実です。このような「労災かくし」は、「安全衛生法(昭和47年6月8日法律第57号。改正平成18年3月31日法律25号)」※4)第100条に違反し、または、同法第120条5号※5)に該当することとなります。実際、同法違反による検察庁への送検件数推移※6)をみると、主な業種は建設業、製造業が大半を占め、平成13年(126件)以降、平成14年(97件)を除いて毎年100件以上で、直近の平成18年(138件)は、平成10年(79件)の約1.7倍にまで増加し、最悪の結果となっています。
 すでに国は、「第11次労働災害防止計画の概要(平成20年3月19日公示)」で、平成20年度~24年度(5ヵ年計画)に亘る、労働災害による死亡者・死傷者数の前年比減少等を目標とした計画を策定(労働安全衛生法第6条)しており、当計画で、建設業、製造業、陸上貨物運送業等、労働災害多発業種対策等を規定しています。当ブログ(請負シリーズ9)で、平成18年の労働災害発生状況をご紹介しましたが、直近、平成19年の死亡者数は前年比減で過去最小(1,357人)で、重大災害(一時に3人以上の労働者が業務上死傷又は罹病した災害)も293件、と前年より減少※7)している中で、「労災かくし」は増加の一途を辿っているという現状です。
 そこで、「労災かくし」の事由を探るべく送検事例をみると、冒頭の「労災かくし」の内容自体である「未報告」が約8割、「虚偽報告」が約2割という実態は全く論外として、具体的には、「元請けの労災保険を使うと迷惑がかかるから」という事由が散見されます。これは、受注を確保するためには、元請けに迷惑をかけられないという事業者本位の考えに他なりません。つまり、建設業の場合は、公共事業の入札指名業者から外されて以後の仕事がとれなくなるとか、下請業者の場合は、元請業者から以後の仕事の発注がされなくなる等、という不安材料が事由として存在しているからです。その上、労働保険料として雇用保険の保険料と合わせて一元的に徴収される労災保険料は、事業の種類ごとに定められていますが、継続・有期事業のメリット制の適用や特例(中小企業事業主)を受けている事業者において、メリット労災保険率に影響して多額の保険料を徴収されるとか、労災メリット還付金の返還、全工期無災害記録の取消・返還等に繋がる等、マイナス要素が発生することから逃れようとするものです。
 こうした「労災かくし」は、コンプライアンス違反そのものであり、司法処分として地方検察庁に送致(送検)されます。発覚の端緒は、主に「被災者、家族、同僚からの連絡」や「監督官の調査」ですが、とくに、「健康保険不支給決定者」への労災保険給付の請求勧奨を通じて「労災かくし」が疑われる事案が把握された場合には、各地方社会保険労働局からの情報提供等を連携する当局が、当該事業主に対して適切な指導を行う※8)、と「労災かくし」対策を明言しており、規定違反の疑いがある場合は、強制捜査が実施され、50万円以下の罰金が科せられることになります(安全衛生法第120条)。社内で、コンプライアンスの重要性をどんなに唱えていても、実際に遵守されなければ念仏に過ぎません。「労災かくし」は、「損あって得なし」どころか、企業モラルが問われるものであり、まさに、「犯罪である」と認識することが重要です。
※1)労働安全衛生規則(昭和47年9月30日労働省令第32号)第97条(労働者死傷病報告)。
※2)労働基準法施行規則第57条。安全衛生法第100条第1項及び第3項。
※3)療養・休業・障害・遺族・介護補償給付、葬祭料、傷病補償年金等の保険給付。
※4)改正:平成18年6月2日法律50号(施行予定:平成20年12月1日)。
※5)第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者。
※7)「平成19年における死亡災害・重大災害発生状況(平成20年5月22日)」厚生労働省公表資料。
※8)「『労災かくし』の排除に係る対策の一層の推進について(基発第0305001号平成20年3月5日)」厚生労働省労働基準局資料。
参考:※6)厚生労働省HP資料。「『労基署調査』これが実際だ!対応策だ!(セルバ出版編集部著)」セルバ出版。