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2011.12.11

★ブータン王国の国民総幸福量(GNH) 日本国民の“「幸福度」評価の新指標づくり”が始まる

◆来日された“ブータン国王夫妻”

 過日、「ブータン王国(Kingdom of Bhutan。首都:ティンプー)」※1)のジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王(第5代)夫妻が来日されましたが、国王夫妻の穏やかなご表情や立ち振る舞いに、暫し魅了された日本国民は少なくなかったのではないかと思います。
※1)《正式な国名は、国旗にも描かれた竜の国を意味する「ドゥック・ユル」》(外務省)。

◆“世界一幸せな国”が存在した

 と言うのも、国王夫妻の《離日後もプチブームが続いている》とのマスコミ報道があったからです。それは国王夫妻の魅力に留まることなく、ブータンが“国民総幸福量(Gross National Happiness:1970年提唱)”という独自の考え方を国家の指標と掲げ、国民の9割以上が「幸せ」と回答(2005年国勢調査)する“世界一幸せな国”と言われているからではないでしょうか。現実逃避したい訳では毛頭ありませんが、「このままブータンに移住したら幸福になれるのだろうか」等と、一瞬の幻想に浸ったのは私だけでしょうか・・。

◆ブータン王国の概要

 さて、その「国民総幸福量(GNH)」の中身を確認する前に、ブータン王国の一般事情(面積・人口等)に少し触れておきます。
 外務省公表資料によると、ブータン王国の面積は約3万8,394平方キロメートル(九州とほぼ同じ)で、より近似値では四国(06/10/1時点面積)の約2倍の広さに相当します。人口は約69.6万人(ブータン政府資料2010年)で、大田区(東京都特別区。69万3,426人:10/10/1国勢調査)とほぼ同じです。この人口の約8割を占めているのはチベット系民族で、この広大な土地で生活しているのです。
 また、《ブータンは、ほとんど全ての消費財や資本財をインド及び他国からの輸入に依存して》おり、2010年のブータンの輸出(対インド89%)・輸入(対インド75%)共にインドがトップ国です。因みに、対日輸出入貿易額(同年)は、「輸出(2.74億円)」が同国内第4位、「輸入(17.7億円)」が同国内第5位という実績です。そして、ブータンの《経済活動を行う労働力は全人口の68.6%》で、その約6割が農業※2)に従事しています。
※2)ブータンの農業の発展には、日本人で農業専門家の故西岡京治氏(海外技術協力事業団(現国際協力機構:JICA)派遣専門家)の存在がありました。現地の農業開発に28年間ご尽力され、外国人初の「ダショー(ブータンの爵位、英国のサーに相当)」を国王から授与されました。

◆ブータンの『国民総幸福量(GNH)』とは

 閑話休題、そこで「国民総幸福量(GNH)」という独自の考え方を、以下に列記しました。
【GNHの4本柱】
 1.持続可能で公平な社会経済開発、2.環境保護、3.文化の推進、4.良き統治
【GNH推進の9分野】
(1)心理的な幸福、(2)国民の健康、(3)教育、(4)文化の多様性、(5)地域の活力、(6)環境の多様性と活力、(7)時間の使い方とバランス、(8)生活水準・所得、(9)良き統治

◆“医療費&教育費は無料”のブータン王国
 実際、これらの項目を眺めただけでは、ブータンの幸福度合いは解かりません。現在、日本では「社会保障と税の一体改革」が議論されていますが、ブータンでは《医療費と教育費は無料》で、この医療・教育の分野だけを取り上げると、本当に“夢の国”と言えるかもしれません。
 この《医療費の無料化に関しては》、日本人の鈴木法之主任研究員(財団法人静岡総合研究機構)が、「現地調査報告書(SRI 2010.4 No.99)」で実体験を述べられていますので、その抜粋(原文のまま)をここでご紹介します。それは、《現地で一時期体調を崩し病院を受診した際に、外国人であってもパスポートを見せることなく医師の診察と投薬を受けることができ、しかも無料であったのは驚きであった。》との調査結果です。 勿論、ブータンの総幸福量は、このような医療費等の無料化にとどまらず、チベット系仏教やヒンドゥー教等の価値観の下、《伝統文化を重んじ、公的な場所では民族衣装の着用を義務づけ》られており、また、《森林や伐採業務を国有化》する等、前掲「GNHの4本柱」に基づく政策が展開されているのです。

◆日本は“「幸福度」指標の試案”を発表
 さて、わが国に目を転じると、内閣府が《国民の「幸福度」を評価する新たな指標の試案》を発表(11/12/5日付:古川元久経済財政担当相)したところです。これは、《国民の豊かさをはかる新たな指標として「幸福度」を導入し、「経済的状況」と「心と体の健康」それに「地域や人との関係性」の3つの柱》としたものです。当該報道に接し、「ブータンは大の親日国だから、日本もブータン化するの?」等と早合点してしまった方もおられたのではないでしょうか。

◆『新成長戦略』に謳われていた“幸福度”
 この「幸福度」導入に関しては、少し遡及しますが、民主党政権による『新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~(平成22年6月18日閣議決定)』に明記されており、これに基づくものです。当該戦略の該当部分は次の2箇所(斜体文字を含め、原文のままを「部分抜粋(前後文節は省略)」)で、下記のとおりです。
(その1つ目は)
《21世紀日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト》
成長を支えるプラット・フォーム
Ⅵ.雇用・人材分野における国家戦略プロジェクト
(20.新しい公共)
 新しい成長及び幸福度について調査研究を推進する。
(その二つ目は)
第4章 新しい成長と政策実現の確保
(新しい成長)
 日本政府としては、幸福度に直結する、経済・環境・社会が相互に高め合う、世界の範となる次世代の社会システムを構築し、それを深め、検証し、発信すべく、各国政府および国際機関と連携して、新しい成長および幸福度(well-being)について調査研究を推進し、関連指標の統計の整備と充実を図る。

◆「幸福度に関する研究会」で検討されてきた
 そして、この《「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)に盛り込まれた新しい成長及び幸福度に関する調査研究を推進するため、有識者からなる「幸福度に関する研究会:座長・山内直人大阪大学大学院国際公共政策研究科教授」》が発足(10/12/9内閣府特命担当大臣(経済財政政策)決定)したのです。そして、当該研究会の継続開催で、「幸福度」が検討されてきたという経緯です。

◆「幸福度」の構成要素は
 既述のとおり、内閣府は3つの柱を中心として《132の項目について数値化する》方針ですが、《来年からデータを集めて、有効性を検証する》としています。これに関して、前記の「第2回幸福度に関する研究会(平成23年2月16日)」で提示された『資料4:「幸福度研究からわかる幸福の構成要因と幸福度との関係―欧米諸国と我が国―」』は、ご参考の一助になるのではとの思いから、当該資料に掲載されている「構成要素(原文のまま。全29項目)」を以下に抜粋(列記)しました。
●所得と富 ●貧困の状況 ●失業の状況 ●教育や職業訓練 ●仕事の満足度や経済的安定 ●余暇 ●起業のしやすさ ●居住環境 ●子育てのしやすさ ●犯罪の被害の少なさ ●政治的活動への参加 ●司法への信頼 ●行政への信頼 ●国際競争力 ●経済の開放度 ●余命 ●健康余命(不健康な期間を除く余命) ●身体的健康 ●心の健康 ●自尊心(自分の人生への評価・自信など) ●医療サービスへのアクセス ●人と一緒に行う行動(文化、スポーツ活動など) ●人のために行う活動(ボランティアなど) ●サポートしてくれる人の存在 ●他人への信頼感 ●地域活動の活発さ ●家族との関係 ●地球環境の持続可能性 ●財政の持続可能性

◆「何を優先すべきか」を検討
 これらの「構成要素」はいずれも大切な要素に思えますが、東日本大震災後の「第3回幸福度に関する研究会(平成23年5月18日)」において、山内直人座長はメッセージ(「震災からの復興と幸福度検討の意義」)の中で、次のように述べられています。即ち、《被災者の方々、社会的に孤立した人々、日本に暮らす多くの人々が、未来の希望や幸福を感じることができるようになるために何を優先すべきかを検討するとき》であると。

◆世界都市の「生活の質ランキング」公表
 ここで、過日発表(11/11/29日付:米コンサルタント会社マーサー)された世界221都市の「生活の質ランキング」を見てみましょう。海外の各都市はさて置き、わが国の上位都市の順位を見ると、「東京」は第46位(昨年:40位)で、以下、「神戸」と「横浜」が各々第49位、「大阪:第57位」、「名古屋:第60位」という結果でした。ブログ読者の皆様は、この結果をどのように捉えられますか?

◆“生活の質”の向上を目指して
 この『生活の質(QOL:Quality of Life)』とは、《人々の生活を物質的な面から量的にのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方(「大辞林」)》です。既述のとおり、わが国の「幸福度」評価の指標づくりにおいて、(1)「経済的状況」、(2)「心と体の健康」、(3)「地域や人との関係性」の3つの柱を中心に検討されるでしょうが、本来的に個々人の「幸福度」は主観的要素に大きく影響されるものと思います。「何を幸福と捉えるか」は私たち個々人に委ねられますが、これから「社会保障と税の一体改革」の議論が展開されていく中で、東日本大震災の被災者の方々をはじめ、パート等の非正規労働者は勿論のこと、すべての日本国民が幸福度アップを実感できる“生活の質(QOL)の向上”を願うばかりです。
【資料】内閣府公表資料。外務省公表資料。経済産業省公表資料。各紙記事。