2008.05.30
改正「機械包括安全指針」の要点について (請負シリーズ15)
◆製造請負受入れは約1,000事業所
製造業における請負労働者がいる事業所の割合は、約1,600の事業所のうち、従業員規模50人以上の製造事業所を対象とする業務請負調査※1)においては61%で、「人件費・労務管理コストの削減」、「雇用調整が容易」、「生産変動への対応」を主な受け入れ理由として増加してきました。また、業種別では、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、金属製品製造業の順で多くを占めています。
◆「指針」不認知及び改正事由
当ブログの過去の記事(請負シリーズ9)で、①請負労働者の労働災害発生率が、元方事業者※2)のそれと比して高いという現状と、②請負事業者の多くが有償で借り受けている機械設備の安全対策を進めるため、「機械の包括的な安全基準に関する指針(機械包括安全指針)」※3)が改正されましたが、周知状況が悪い(当指針を知らない:84.1%※4)という現状をご紹介しましたが、肝心の当指針内容は後報すると記しましたので、今回、以下に当該改正指針の概要(出所:厚生労働省資料)をご案内します。当指針は、請負事業者の労働災害発生件数が増加傾向にある中で、とくに、製造業おける機械災害の防止対策として、機械メーカー及び機械ユーザーの両者が、製造及び使用段階において機械の安全化を進めることが重要との観点から改正されました。
◆所謂「機械包括安全指針」とは
この「機械包括安全指針」は、労働安全衛生法※5)第3条第2項※6)に基づき、機械メーカー等はこの指針に沿って機械を設計製造することが求められます。また、同法第28条の2では、事業者は、業務に起因する「危険性又は有害性等を調査(リスクアセスメント)」※7)し、その結果に基づいて措置を講ずるよう努めなければならないと規定されています。従って、当指針は、同法第28条の2が規定されたことから、機械の安全化の手順がこれに沿ったものに見直され、ISO規格等の国際基準との整合性を図って改正された訳です。
◆「指針」による機械の安全化の進め方
第一に、機械メーカーにおいては、①機械の設計段階でリスクアセスメントを行い、機械の危険性又は有害性を特定し、リスクを見積ります。リスクに応じた保護方策を実施し、適切なリスクの低減を行います。この際、機械本来の使い方だけでなく、予見可能な誤使用やトラブル処理時等のリスクも考慮する必要があります。②設計・製造段階での機械の安全化を図ることが根本的対策として最も効果的で、機械操作する者に頼らない本質的な安全方策を優先して実施することが重要です。③「前記②」の設備対策を講じた後に存在する「残留リスク」については、残留するリスクの内容とその対処法についての必要な情報等を、「使用上の情報」としてユーザーに提供する。
第二に、機械ユーザーにおいては、①メーカーから提供された「使用上の情報」を活用し、リスクアセスメントを実施し、必要な保護策を実施し、リスクが低減されたことを確認する。設備対策を講じた後に存在する残留リスクに対しては、作業手順作成や教育訓練実施等の措置を行った上で機械を使用する。②リスクアセスメントを実施する上で必要な情報がメーカーから提供されていない場合には、メーカーに情報を提供するよう求める。②発注の段階で安全に関する仕様をメーカーに提示するとともに、使用開始後に明らかになった安全に関する情報をメーカーにフィードバックする。
※1)「職場における業務請負に係る安全衛生管理の実態に関する調査報告書」中央労働災害防止協会。
※2)一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているものをいいます。なお、仕事の一部を請け負わせる契約が複数ある場合(2次下請等)については、最も先次の請負契約における仕事を注文した者がこれに該当します。
※3)基発第0731001号平成19年7月31日。厚生労働省労働基準局通達。
※4)「『機械の包括的な安全基準に関する指針』認知の有無及び機械設備を購入する際の優先の有無別事業所割合(企業規模・事業所規模・産業):労働安全衛生基本調査平成17年事業所調査」厚生労働省統計調査別公表データ(2005年)。
※5)昭和47年6月8日法律57号。改正:18年3月31日法律25号。(改正:18年6月2日法律50号。施行:平成20年12月1日)
※6)「機械、器具その他の設備を設計し、製造し、若しくは輸入する者、原材料を製造し、若しくは輸入する者又は建設物を建設し、若しくは設計する者は、これらの物の設計、製造、輸入又は建設に際して、これらの物が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するように努めなければならない。」
※7)危険性又は有害性によって生ずる恐れのある負傷又は疾病の重篤度及び発生する可能性の度合の調査。
参考:「業務請負・労働者派遣の安全衛生管理(木村大樹著)」中央労働災害防止協会。