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2013.05.12

★高齢者ドライバーの「運転免許証」返納特典策による交通事故減少の目論みは“焼け石に水”?

◆「高齢者の運転免許証」自主返納に相次ぐ特典

 《運転免許証を自主返納した高齢者に特典を与えるサービスが、京都府北部の市町で広がっている》との報道(2013/4/18日付※1)に接しました。勿論、高齢者の運転免許証返納は今日始まった訳ではありませんが、当該施策は、高齢者ドライバーの“自主返納”に大きく依存して交通事故を減少しようとする対症療法に思えてなりません。

◆「特典」実施は5市2町で

 と言うのも、当該施策の「特典」内容を列記すると、(1)市民バス1か月無料券配布(対象:70歳以上)、(2)市バス1か月定期購入補助(6,400円。対象:年齢制限なし)、(3)民営交通バスの半年無料券または市営バス回数券(2万4,000円分。対象:65歳以上。障害者は年齢制限なし)、(4)民営交通バスの半年無料券または町営バス回数券(2万円。対象:65歳以上)等々、です。この結果、2012年の返納者数(5市2町合計)は「合計:238人」だったのです。

◆実態は“焼石に水”?

 執拗に、前掲の「年間返納者数(238人)」に拘ってその占率を見ると、当該「5市2町」の対象年齢層の合計人口(14,5301人)※2)に対し、わずか「0.16%」です。また、「特典」対象で「年齢制限無し(1市)」の対象年齢層を65歳以上に限定した場合でも、合計人口(5市2町:8万6,561人)に対して「0.27%」の占率です。残念ながら、まさに“焼石に水”ではないでしょうか。但し、当該市町の合計人口は、運転免許保有者に限定した人口でない点はお断りしておきます。
※2)国勢調査(H22/10/1現在。総務省統計局)

◆「65歳以上の高齢者」の交通事故死者数は増加傾向

 『平成23年版高齢社会白書:内閣府』のデータを見ると、「65歳以上人口」に対する交通事故死者数の割合は、1996年以降、2010年まで減少が続いていますが、「65歳以上の高齢者の交通事故死者数」の交通事故死者数全体に占める割合は年々上昇しつつあり、「2010年は50.4%(2,450人)」でした。この数値は、統計が残る1967年以降で最も高くなっているのです。これらの事実に基づけば、地方自治体が「高齢者ドライバーの運転免許証自主返納」に躍起になるのも理解できますが、日本の高齢者人口は今後年々増加していく訳ですから、運転免許証の自主返納という“火消し”のみに依存しているだけでは、遅々として進展しないのではないかと考えます。
◆「高齢運転者対策」は計画されている
 因みに、政府の『第9次交通安全基本計画(計画期間:平成23年度~同27年度):内閣府』で、道路交通の安全について見ると、(1)年間の道路交通事故による24時間死者数を3,000人以下(30日以内死者数で概ね3,500人)とする、(2)死傷者数を70万人以下にする、という目標(一部抜粋)が掲げられています。そして、平成25年度の『交通安全業務計画(国家公安委員会・警察庁)』では、「高齢者に対する交通安全教育の推進」や「高齢運転者対策の充実」等が計画されています。
◆“高齢ドライバーの運転特性”に着目を
 勿論、高齢者ドライバーに多い事故パターンは、警察当局や交通専門家等によって分析されていますが、単に65歳以上の高齢者ドライバーの“絶対数減少施策のみに依存”するだけでは決して充分とは言えません。そこで、高齢者の交通安全施策等の研究に取り組み、当該分野の第一人者である鈴木春男氏(千葉大学名誉教授)は、「高齢ドライバー事故の実態と対策(2007予防時報228)」と題するレポートで、《高齢ドライバー特有の運転特性が問題にされるべき》と指摘しています。つまり、高齢者ドライバーの「身体的・心理的・運転的特性」を踏まえた、より能動的な施策で高齢者ドライバーの交通事故減少を図ることが肝要であるとの趣旨と捉えました。
◆トヨタが高齢ドライバー対象に「社会実験」実施中
 前掲の鈴木名誉教授のご指摘に関係するか否かは不明ですが、トヨタ自動車株式会社が中心となって、今年2月から《高齢ドライバーの事故が多い交差点事故を対象とした社会実験(5月完了予定)》の実施を公開しました。TV報道(5/1放映)とトヨタ自動車の公表資料によれば、《高齢ドライバーの交通事故の約半数は交差点内および交差点付近で発生》しており、《安全不確認が約50%》を占めていると分析しています。今回の当該「社会実験」では、《50名の高齢ドライバーの車両にドライブレコーダーを搭載することにより、交差点における高齢ドライバーの運転行動を分析》後、「安全運転講習会」が実施されています。特記すべきは、《車載カメラで一時停止標識や赤信号を認識し、ドライバーが高い速度で交差点に進入しそうになると、危険と判断して音と表示でドライバーに注意喚起する「交差点・注意喚起システム」も提供》されている点が挙げられます。自動車メーカ各社が生産・販売の海外展開に傾注する中、今更ながら、トヨタ自動車の社長就任会見(2009/6/25)の“お客様を虜にするクルマを送り出したい”(下記【ご参照】)とのメッセージを思い出しました。日本国内における“若者層の自動車ファン増大”も狙いながら、一方で、前述のとおり、「高齢者の交通事故対策」にも真剣な取り組みの企業姿勢を垣間見ました。
◆高齢ドライバーにも“運転の喜び”を
 わが国が少子高齢社会であることは言わずもがなですが、所謂“団塊の世代”を中心とした高齢者層は、高度成長時代に自動車に憧れてマイカーを保有し、カーライフを満喫してきた経緯があります。芸能人等を含む「クラシックカーマニア」は、毎年のツーリングを恒例行事として実施しており、筆者も当該報道に接して羨んでいる自称カーマニアのひとりです。“人生80年時代”と断言できる現代、冒頭記載の高齢者ドライバーの運転免許証の自主返納率を見る限り、自身が高齢者になっても健康で運転できるならば、クルマの運転をし続けたいと考えている人は決して少なくないのではないかと思います。そういう観点から、運転免許証自主返納に係る“特典サービス施策”のエスカレートを残念に思うのは私だけでしょうか。“安全・安心”を大前提として、政府や地方自治体には、“高齢者のカーライフの喜び”を持続できる交通基盤整備や施策の実施を切に願うところです。
【ご参照】
●ブログ記事(2010/2/26日付):『モーターショー&エコカー減税 “国民を虜にするクルマづくり”を期待』
 URL http://www.jsbb.jp/sj/1200/
【参考資料】内閣府政策統括官公表資料。警視庁交通総務課高齢者交通安全対策係公表資料。(一財)全日本交通安全協会公表資料。(社)日本自動車工業会公表資料。トヨタ自動車株式会社HP公表資料。※1)京都新聞記事。