2008.05.16
下請けは受注時の明確な書面が重要 (請負シリーズ13)
◆「下請法」は親事業者の濫用行為を取締まる
所謂「下請法(下請代金支払遅延等防止法。昭和31年6月1日法律第120号)」は、下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護を目的として制定されましたが、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるための特別法といえます。同法は、(1)取引を委託する親事業者と受注する下請事業者の資本金規模と、(2)適用対象となる取引内容の両面で定義しています。
◆改正下請法で新たな委託内容を追加
近年の経済のサービス・ソフト化の進展を鑑み、改正下請法(平成15年6月18日法律第87号。平成16年4月1日施行)※1)では、「情報成果物作成委託(3タイプ)」及び「役務(サービス)提供委託」※2)が取引対象に追加され、従来の「製造委託(4タイプ)」及び「修理委託(2タイプ)」と併せて4つの委託内容が規定(改正下請法第2条)されました。
◆「下請かけこみ寺」は相談窓口
この度、「平成19年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組(概要)」が公表(平成20年5月14日:公正取引委員会)され、全国紙で「『下請けいじめ』監視強化」と報道※3)されたところです。「下請けいじめ」という見出しになったのは、全国相談窓口「下請かけこみ寺(無料)」※4)への相談(「業務と関係の無い商品の購入強要」、「契約書に無い値引き要求」等)が数百件に上っていることに因るものと推察します。同公表結果をみると、法改正以降の勧告件数は最多(13件)で、うち、改正後に対象となった「役務委託等」の勧告件数(8件)が「製造委託等」の勧告件数(5件)を上回り、他方、「製造委託等」の勧告は、昨年の8件より減少したものの、改正以降(16年度:4件、17年度:5件)は横バイという状況です。
◆「下請代金減額」事件等で行政指導・罰金
問題は勧告内容ですが、「買いたたき」事案1件の初勧告を含め、いずれも「下請代金の減額」事件でした。下請法では、親事業者の遵守事項として同法第4条で禁止事項(11項目)を規定しており、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること(同法第4条1項3号)」及び「買いたたき(同法第4条1項5号)」等は禁止されています。親事業者がこのような禁止行為をした場合は、その取引に関する報告徴収・立入検査(同法第9条)が行われ、公正取引委員会により、違反行為に対する行政指導による是正(勧告:同法第7条)がなされ、また、同法第3条(書面の交付等)及び第5条(書類等の作成及び保存)に違反したときは50万円以下の罰金に処せられます(同法第10条)。
◆「運用基準」は違反行為未然防止が目的
実際、取締り対象である親事業者による違反行為の未然防止が重点なので、下請法の目的に照らし、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成15年12月11日事務総長通達第18号)」でも、親事業者に対する遵守事項等が基本になっていますが、とくに、罰則に繋がる同法第3条の規定(下請事業者に交付しなければならない書面)に関しては、「発注時の取引条件等を明確にする書面の交付を徹底させる」としています。この親事業者の書面の交付義務は、翻って、下請事業者の立場からすると、発注時の取引条件等を明確にする書面を、親事業者からきちんと受け取ることが重要であり、それを徹底できるか否かが、違反行為を未然防止する上で受託者側の義務に相当すると言っても過言ではないでしょう。なぜなら、前記の運用状況公表結果でみられた「買いたたき」を始めとする「下請代金の減額」事件は、発注した書面内容に基づくものであり、下請事業者が毅然とした態勢で、各委託に係る親事業者からの書面交付に臨むことが重要だからです。
※1)最終改正:平成17年7月26日法律第87号。平成18年5月1日施行。
※2)請負った役務を再委託すること。下請法では、建設業法に規定される建設業を営む者が業として請負う建設工事は対象となりません。また、役務提供委託として規制される役務とは、委託事業者が他者に提供する役務のことで、委託事業者が自ら利用する役務は含まれません。
※3)2008年5月14日付日本経済新聞朝刊第42面掲載記事。
※4)中小企業庁が平成20年4月から財団法人全国中小企業取引振興協会(全取協)に業務委託して実施中。
参考:「下請法違反行為に対する措置(平成18年度)」公正取引委員会資料。「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック『ポイント解説下請法』」公正取引委員会・中小企業庁資料。