2008.05.15
偽装請負と臨検監督 (請負シリーズ12)
◆偽装請負で「送検」もある
国は「平成20年度地方労働行政運営方針」※1)で、労働基準行政の重点施策(労働条件の確保・改善等)の一環として、「特定の労働分野における労働条件確保対策の推進」を挙げています。これは、近年社会問題化している偽装請負に対する対策で、「偽装請負が疑われる事案については、共同監督の実施など職業安定行政と連携した対応を行うとともに、偽装請負が関係する死亡災害をはじめとする重篤な労働災害については司法処分も含め厳正に対処する」と策定しています。この「司法処分も含め厳正に対処する」とは、すなわち、労働基準監督官は、刑事訴訟法に規定する特別司法警察職員としての権限(労基法第102条)に基づく職務を行うので、偽装請負発覚の結果、検察庁に送致(送検)されることもあるということを意味します。
◆労災発生時は「労基署通報」も必要
偽装請負が発覚する要因の一つは、労災事故の発生です。業務請負契約を交わしていながら、実際には労働者派遣に該当する場合、受入れ企業(発注企業)で労災事故が発生すると、その責任をめぐる問題が発生するからです。勿論、事故現場で火災や爆発が発生した場合は、まず消防署に通報されますが、労働災害で被災者がいる場合は、警察署のほか、現場検証に対応できるよう事故現場保存のうえ、事故現場を管轄する労働基準監督署への通報も必要です。万一、災害が発生した場合、労働基準監督署が実施するのは「臨検監督」※2)で、(a)労働災害調査※3)と(b)災害時監督※4)があります。災害が発生しなくても、各労働基準監督署は、冒頭の「行政運営方針」に則し、各局内の管内事情の重点課題を盛り込んだ行政運営方針を策定していますので、同方針に従って「定期監督(定期臨検)」※5)に臨むことになるのです。
◆指導監督状況は(愛知労働局管内)
ここで、平成18年度に実施された是正指導結果(愛知労働局管内)を一例に、請負事業を含む労働者派遣事業関係の個別事業所に対する指導監督状況※6)をみると、指導監督件数671件(事業所。法違反68.6%)のうち、請負事業主は228件(占率34.0%)で、その内210事業所で「請負契約による労働者派遣」がみられて是正指導され、「労働者供給事業」※7)に該当したのは67事業所でした。同様に、発注者においては86件中、前者が74事業所、後者が8事業所という結果です。たとえ労働災害が発生しなくても定期監督が実施されますし、臨検監督にはその他に(1)「申告監督」※8)と(b)「再監督」があります。同指導結果をみると、労働者からの申出に基づくものは147件中、請負事業主54(占率36.7%)、発注者28(同19.0%)を占めており、請負事業主及び発注者は、安閑としていられないことを肝に銘じてください。このように、臨検監督実施の有無を問わず、偽装請負にならないためには、請負要件である「区分基準」※9)を踏まえ、請負(業務委託を含む)が適正に行われているかの目安になる「請負の適正化のための自主点検表(27項目:東京労働局HP資料ご参照)」等で改めて自主チェックし、「適法な請負態勢」を確立することが重要と考えます。
※1)平成20年3月31日付厚生労働省大臣官房報道発表資料。
※2)労働基準監督官による企業への立入調査のこと。労基法、安衛法等の法律にその事業場が違反していないか否かを調査確認し、法違反があった場合には是正させ、適法な状態にすること。原則として、事前に連絡せずに抜き打ちで行われます。
※3)職場等で重大災害(3名以上の死傷者発生の労働災害)や、志望・瀕死の重症・中毒・爆発災害が発生した場合。
※4)被災者の身体に障害が残る重い災害、機械による労働者の被災等が該当。
※5)過去の監督指導結果、各種の情報、労働災害報告等を契機とした監督指導のこと。
※6)「平成18年度における労働者派遣事業所の動向と指導監督等の状況(平成19年6月29日)」愛知労働局発表。
※7)職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)。
※8)従業員その他の者から労基署、都道府県労働局に対して電話、文書その他の方法で通告や依頼をしてくること。
※9)「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年4月17日労働省告示第37号)」。
参考:「混成職場の人事管理と法律知識Q&A(産労総合研究所編)」経営書院。「『労基署調査』これが実際だ!対応策だ!(セルバ出版編集部著)」セルバ出版。