2010.08.07
★地デジ化移行に伴う“東京スカイツリー”&「名古屋テレビ塔」の明暗
◆観光名所と化した“工事現場”
現在、東京都墨田区に建設中(作業員総勢:500人/日)の「東京スカイツリー」は、2011年12月の竣工時(予定)に自立式電波塔※1)として“世界一の超高層タワー”になるということで、その工事現場には都内周辺住民をはじめ全国からの見学者が相次ぎ、観光バスも停車するカメラスポットで、観光名所と化しています。
※1)自立式以外では、(1)《ビルの屋上に建っている電波塔(ルーフタワー)》や、(2)《塔本体が倒れないように、ケーブルワイヤーなどの支線で支える形式(支線式)》があります。
◆2ヶ月ぶりに「高さ:400m」を突破!
当該タワーの高さが398mから約2ヶ月間更新されなかった為、今夏の連日の猛暑と相俟って、7月の全国からの見学者は6月より減少傾向した(東京Walker)とのことです。しかし、同タワーの高さは7月30日の午後に400mの大台を突破し、子供達は夏休みの只中でもあるので、タワー見学者は再び増加するものと思われます。蛇足ながら、筆者は8年前に都内在住していましたが、今なら、即刻、タワー見学者の一人として、その“成長の証”をカメラに収めているものと想像しています。
◆“電波塔”としての「東京スカイツリー」
過日のTV報道(NHK総合)“その誕生と成長の舞台裏”でその詳細が公開されましたので、皆様もご承知のことと思います。「東京スカイツリー」は完成後の「高さ:634m」を誇る“今世紀最大のタワー”で、前掲のとおり、《第一の役割は電波塔》としての存在です。因みに、“地上デジタル放送の完全移行(11/7/24)”まではあと1年を切りましたが、関東地方では同タワーの完成を待たず、すでに地上デジタル放送は開始(2003年12月)されています。
◆「アンテナ(ゲイン塔)」単体の長さ120m
電波塔としての「東京スカイツリー」の魅力はその高さのみならず、いくつかの特長が挙げられます。
第一に、その外観は《藍染の技法に倣い美しい色合いを目指したのが、オリジナルカラーの「スカイツリーホワイト」》で、《かすかに青みがかった「白(藍白:あいじろ)」をまとったタワーは、ときに繊細な輝きを放つ》とのことですから、晴天時に燦然と輝くタワーをじっくり見上げてみたい思いに駆られます。
第二に、同タワーの《足元は一辺約70mの正三角形》で、《上に向かって徐々に円形に近づき、高さ約300mで正円に》なり、《日本刀がもつ「そり」、寺院や神社の柱に見られる中央がゆるやかにふくらんだ形の「むくり」により、タワーは見る角度によって多彩な陰影を作り出す》という設計です。
第三は、五重塔の建築様式(心柱)に倣って耐震・免震に配慮するのみならず、タワー頂部に取り付けられる「アンテナ(ゲイン塔:120m)」自体が当初計画より24m延ばされたことによって世界一の高さとなるのです。そしてさらに驚嘆する点は、このゲイン塔取付けは頂部に載せるのではなく、タワー本体の中の空洞を利用して、工事の最後に地上から“最頂部へ押し上げられる”計画です。意識されたものか否かは未確認ですが、まさにタワー所在地名(押上)に因んだ工法ではないでしょうか。ただ、正確には、タワー内を頂部まで引き上げると言うのが正しいのかもしれません。
◆タワー構造設計で著名な故内藤多仲氏
このように話題沸騰で華やかな「東京スカイツリー」を“明”とするなら、“暗”は日本で最初に完成した集約電波塔の「名古屋テレビ塔(1954年竣工。高さ:180m。施工:株式会社竹中工務店)」です。因みに、「名古屋テレビ塔」の設計者は、「東京スカイツリー」と同じ「株式会社日建設計」の他に、札幌市のランドマーク「さっぽろテレビ塔(1957年竣工。高さ:147.2m)」や現在の東京のシンボル「東京タワー(1958年竣工。高さ:332.6m)」等の構造設計者であった故「内藤多仲(ナイトウタチュウ)」氏です。
◆電波塔の役目を終える「名古屋テレビ塔」
実は、その“暗”の要因と言うのは、「名古屋テレビ塔」は地上波アナログテレビの電波を送信して56年になるのですが、“地デジ化移行”に伴う《デジタルテレビ用の送信アンテナを設置するには強度不足と判断された》こと、また、《ラジオ局や業務無線のアンテナは設置されていない》こと等により、2011年7月の“地デジ完全移行”をもって電波塔の役目を終える予定となったのです。その役目を終える同塔は、レストラン増設、全天候型イベントスペースやカフェへの改装等の大規模リニューアルを実施する方針で、耐震工事費用を含めた改修費用総額は約35億円に膨らむとの試算(名古屋テレビ塔株式会社)です。
◆地方にあまた存在する“シンボルタワー”
では、今後、「名古屋テレビ塔」は生き残ることができるのでしょうか。そこで、冒頭記載の「東京スカイツリー」を例に振り返ってみると、実際、タワー構想案が公表された段階では「東京タワー」の代替シンボルタワーが建設されるのかと軽く受け止め、また、その外観予想図から、アジア第一位の高さ:467.9mを誇る「東方明珠電視塔(トウホウメイジュデンシトウ):上海市。1994年完成のテレビ塔」を連想してしまい、いよいよ日本も中国化するのか等と、無知の私は邪推してしまったという経緯です。しかし、超高層オフィスビル同様、所謂“ハコモノ”を建設すればよいという時代は終焉したのではないでしょうか。電波塔に限らず、所謂「ランドマークタワー」は規模の大小の差こそあれ、現在は地方都市にあまた存在するからです。
◆次代のインフラとしての「東京スカイツリー」
しかしながら、同タワーのデザインコンセプトは、《時空を超えた都市景観の創造:日本の伝統美と近未来的デザインの融合》を目指しており、街のシンボルに止どまることなく、《新たな都市文化を創造する「アトリエコミュニティ」、災害に強く、安全で安心して暮らせる「優しいコミュニティ」、先端技術、メディアが集積し、世界へ発信するタワーを核とした「開かれたコミュニティ」》を開発コンセプトとしています。即ち、“世界一の電波塔”として、《携帯端末向けデジタル放送サービスの「ワンセグ」のエリア拡大や、災害時等の防災機能のタワーとしての役割も期待されて》おり、建築主(東武鉄道株式会社、東武タワースカイツリー株式会社)によるタワーを中心とした東西街区の《道路・駅前広場や公園等のインフラ施設整備を図るべく駅周辺土地区画整理事業も進行中で、次代のインフラ的な性格を帯びたもの》として位置付けられているのです。
◆“名古屋の『ALWAYS 三丁目の夕日』”となれるか
閑話休題、「名古屋テレビ塔」が電波塔の役目を終えるからと言って、半世紀以上もの長い間、名古屋市民の生活と共に、市街地の中心で言わば“名古屋の顔”として長年君臨してきた同テレビ塔は、これまで数多くの歴史を刻んできた偉大な存在と言えます。勿論、「名古屋テレビ塔」は電波塔ですから、フロアスペースの制約上、超高層のオフィスタワーと同様に“複合都市”として更生させるには自ずと限界があるものと考えます。一方で「東京スカイツリー」が現在世界一の「広州テレビ・観光塔(高さ610m:中国広州市)」を抜き、また、現在建設中の「上海タワー(高さ632m、2014年完成予定:中国上海市)」を抜いて名実共に世界一(2011年末)となっていくのと合わせて、「名古屋テレビ塔」も新しく生まれ変わることを切望するばかりです。その想いは、過日話題となった邦画『ALWAYS 三丁目の夕日(監督:山崎貴)』での「東京タワー」の存在然り、名古屋市民の“夢と希望を育んでくれるタワー”に再生してくれることを大いに期待しているところです。
【参考】:東武鉄道株式会社公表資料。株式会社日建設計公表資料。株式会社大林組公表資料。日本放送協会TV放送番組。Web『ほぼ日刊イトイ新聞』。日本経済新聞記事等。