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2011.07.02

震災教訓による「やさしい日本語」は“外国人集住都市”での活用を期待

◆「東日本大震災」から4ヶ月目

 「東日本大震災」から4ヶ月目が経過しようとしています。被災者や避難者等に関わる情報は毎日報道されていますが、大津波による被災で爆発火災事故を勃発した「福島第一原子力発電所(東京電力)」の“放射能汚染対策”が遅々としているのを見ると、時間の経過は現実よりも非常に長く感じます。そして、時の経過の早さを嘆くよりも、放射能汚染がまだ現在進行中の状況下に置かれていることに、やり切れない思いで満たされていると言うのが正直な気持ちです。

◆「阪神淡路大震災」を教訓に

 さて、「東日本大震災」は“想定外”の大規模震災となってしまいましたが、地震大国に住む我々日本人は、震災に遭遇するたびに「教訓」を会得していかなければならないのでしょう。過日の「阪神・淡路大震災(95/1/17)」の教訓のひとつとして、外国人被災者の命を救う為、“やさしい日本語”の研究(調査・実験)が開始されたとの報道がありました。

◆震災体験から生まれた「やさしい日本語」の必要性

 そこで、改めて当ブログでその「やさしい日本語」をご紹介しますと、当該研究に取り組んでおられるのは「国立大学法人弘前大学(人文学部社会言語学研究室)」です。同大学研究室の公表資料(「やさしい日本語」パンフレット)によると、阪神淡路大震災時は災害情報を多言語に翻訳している時間が無く、英語のみによる情報伝達に限界を感じたとの実体験に基づき、多くの外国人被災者に“迅速・正確・簡潔”に災害情報を伝えるには、《「やさしい日本語」による情報提供がどうしても必要》であるとの結論に達したとのことです。

◆“情報弱者”の外国人

 と言うのも、「やさしい日本語」の必要性に迫られた要因として、前掲資料では、阪神淡路大震災の「死者数」及び「負傷者数」について、「日本人」と「外国人」の100人当たりの人数が明示されています。前者は「日本人:0.15人」に対し「外国人:0.27人」、後者は「日本人0.89人」に対し「外国人:2.12人」と、それぞれ《情報弱者の外国人》が多かった事実が明らかになったからです。

◆外国人数の上位は“アジア人”
 この事実は、当時被災地となった神戸市を中心に多くの外国人の在住があったことを意味しており、当該資料に国籍別外国人数(平成7年)が明示されています。そこで、改めて直近データ※1)で日本国内の「国籍別外国人登録者数(2009年)」を見ると、総数:約219万人のうち、地域は「アジア(約77.3%)」が最も多く、その国籍内訳人数の上位は、(1)「中国」、(2)「韓国・朝鮮」、(3)「フィリピン」、(4)「タイ」、(5)「ベトナム」の順となっています。これらの国籍を見て、「災害情報の伝達は英語でなんとかなるのでは」等という安易な考えを払拭しなければならないと、今さらながら実感したところです。

◆“放射線注意”のポスター例
 では、具体的に「やさしい日本語」がどのように表現されているのかをお伝えするに当たり、東日本大震災以降、弘前大学の同研究室(前掲)によって新たに作られたポスター(「節電を呼びかける(夏)」)を一例として、以下にご紹介します。
 その内容には前掲の国籍が考慮されており、まずポスター1行目に、「中国語」、「英語」、「韓国語」、「ポルドガル語」の4ヶ国語で「放射線」を表す語彙が記載されています。そして2行目の《注意(ちゅうい)して ください 放射(ほうしゃ)線(せん)》(註:放射線の文字位置のみ3行目の中央)の見出しに続き、シンプルなイラスト(2つ)が挿入されています。そのイラストの下方に、以下の文言(1行ごとに表記)が続いています。《今(いま) 空気(くうき)の 中(なか)の 放(ほう)射線(しゃせん)が 多(おお)いです》、《放(ほう)射線(しゃせん)は 目(め)に 見(み)えません》、《放(ほう)射線(しゃせん)が 多(おお)いと 体(からだ)に 悪(わる)いです》、《放(ほう)射線(しゃせん)に ついての 話(はなし)に》、《気(き)をつけて ください》(註:文言間の空白は原文のまま。平仮名でルビ。但し、括弧《 》表示無し。)です。

◆「やさしい日本語」のメリット
 この「やさしい日本語」表記は、すでに全国の地方自治体やNPOで《災害時の被害をくい止める減災のための取り組みが始まって》いると紹介(前掲パンフレット)されており、実施自治体は、「青森県、宮城県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、大阪府、兵庫県」です。とりわけ、外国人住民約17万5千人(09/12/31現在)が生活している「神奈川県」は、災害時の外国人住民支援に積極的に取り組んでいます。『かながわ自治体の国際政策研究会 災害時外国人住民支援検討部会 報告書:平成22(2010)年3月』を見ると、「やさしい日本語」が災害時に有効である点として、次の3点(原文のまま)を挙げています。
(1)緊急情報など、一度にたくさんの人にわかりやすく情報を伝えたい。
(2)日ごろ耳慣れない災害時の用語(罹災証明、安否確認等)をわかりやすく伝えたい。
(3)災害時独特の専門用語等を、翻訳者が翻訳しやすいように、通訳者が通訳しやすいように整えたい。
そして、「やさしい日本語」は、《平時から一般の日本人に情報を伝える場合にも有効である》と。つまり、「やさしい日本語」は、外国人のみならず、前掲のポスター表記で明らかのとおり、子どもや高齢者にも十分理解できるというメリットがあるのです。

◆“外国人集住都市”での活用を期待
 この「やさしい日本語」の必要性は災害発生時の対応のみならず、多くの外国人労働者を擁する製造業企業が集積している都市等においても有効であると考えます。過去の当ブログ記事※2)に記載のとおり、わが国内の外国人が集住する都市(外国人集住会議)においては、“外国人住民との地域共生”の確立を目指しています。因みに、(現在の構成都市は一部変更されましたが)『外国人集住会議(8県/28都市):11/4/1現在』※3)の外国人登録者数は約20万人(19万5,321人)を擁しており、いずれの市町においても「ブラジル人」が第1位の人口となっています。この「やさしい日本語」表記は、外国人との地域共生を目指す「外国人集住都市」の日常生活においてこそ、その効果が益々発揮されるものと大いに期待しています。
【ご参照】
※2)ブログ記事(10/2/22日付)
 :『“外国人庁” 外国人との地域共生を目指す「外国人集住都市」の現状』。
【資料】国立大学法人弘前大学公表資料。※1)法務省入国管理局公表資料。※3)『外国人集住都市会議 東京2010』資料。