2010.10.02
金融業界の動向~預金保険及び保険契約者保護制度について~
◆日本振興銀行が“経営破綻”
今から2年前の当ブログでは、《米国大手証券会社3社の経営破たんや合併等により、最大手保険会社グループが経営危機に陥りました。》との記事※1)を掲載しました。
さて、国内金融業界においては、過日、“日本振興銀行株式会社が経営破綻し、初の「ペイオフ」※2)が適用”されました。冒頭記載の米国企業の経営危機は、所謂「サブプライムローン問題」による株価低迷等の影響を受けたのに対し、後者「日本振興銀行」の場合は、《貸金業者からの債権買取を増加させるとともに、親密な大口与信先に対する急激な業容拡大を図るという特異なビジネスモデルの下で、それに見合った十分な与信審査管理を行わなかった結果、多額の追加引当金が必要となった(金融担当大臣談話)》という経緯で、経営破綻した事情は前者とは大きく異なり、言語道断に他なりません。
◆預金保険機構の「預金保険制度」
前述の銀行経営破綻に関し、金融庁は、日本振興銀行の「その財産をもって債務を完済することができない」旨の申出(9/10)を受け、「預金保険機構」を同行の金融整理管財人として選任(預金保険法第77条第2項)し、同機構の管理下に置いたという経緯です。
この「預金保険機構」というのは政府・日本銀行・民間金融機関の出資により設立された機構で、わが国の「預金保険制度(71年制定)」の運営主体です。当該制度は、こうした銀行の経営破綻時に機能する制度で、同制度により「ペイオフ」が初適用となったのです。但し、同制度の対象金融機関は、日本国内に本店のある銀行法に規定する銀行等で、海外支店、政府系金融機関、外国銀行の在日支店は対象外ですので留意してください。
尚、当該銀行は《決済用預金や普通預金の取扱いがなく、決済機能を有していないほか、インターバンク市場からの調達もないなど、他の金融機関とはその形態が異なっており、こうした面からも他の金融機関とは置かれている状況が異なっているものと認識(前掲の同談話)》されています。
◆ペイオフ対象外の預金総額は110億円
同機構の発表(9/10時点)によると、ペイオフ適用対象外の1,000万円超の預金者数は3,423人(全体占率:2.7%)、1,000万円超の預金総額は110億円(同率:1.9%)とのことです。そして、これら元本1,000万円超の部分については、同行の財産状況に応じ、今後、民事再生手続の下で作成される再生計画に従って弁済が行われるという前提に基づき、最終的な精算は1年以上先になる予定ですが、弁済の保証は現在のところ不透明です。「ペイオフ」初適用の事例として、その推移と結果を確認しておくことは肝要です。
◆生損保会社は「保険契約者保護制度」
ところで、冒頭記載の当「ブログ記事」※1)では「生命保険契約者保護制度」に触れましたが、当該保護制度は、国内で事業を行う全ての生命保険会社が会員として加入(47社:10/5/12現在)している制度です。他方、損害保険会社が経営破綻した場合は、同様に保険業法に基づいて設立された「損害保険契約者保護機構」があります。同機構には、日本国内において損害保険業を営む免許を受けた損害保険会社がすべて加入(42社:10/7/20現在)しており、加入損害保険会社の補償対象契約の保険契約者等が補償の対象となります。但し、両機構共に「少額短期保険業者」等は両保護機構の会員ではない為、対象外となっています。
その他、証券会社は「投資者保護基金」に、また、農林中央金庫や農業協同組合等は「農水産業協同組合貯金保険制度」に加入しており、投資者及び貯金者は保護されているのです。
◆「国際会計基準」&「ソルベンシーマージン比率」
このような制度が確立されているものの、肝心なのは“個々の金融機関の経営体力”です。現在のわが国は、今後「国際会計基準(IFRS)」に統一し、すべての上場企業に同基準を強制適用する(2015~16年)との動向で、とりわけ銀行においては、“新たな自己資本比率基準”が求められています。なぜなら、金融機関が経営破綻しないよう、財務基盤の健全性を高めることは顧客保護に繋がるからです。
一方、生命保険会社においては、「ソルベンシーマージン(solvency margin)比率」※3)が各社の「支払い余力」を見る指標となっていますが、ボーダーラインとされる「200%」超の保険会社でも過去に経営破綻したという経緯がありますので、当該公表数値のみを鵜呑みにして安閑としている訳にはいきません。勿論、毎年の「ソルベンシーマージン比率」は、生保各社のHPでディスクローズされていますので容易に確認できますが、各社の保険契約件数等には大きな差があり、当該数値が「数千%」に上る生保会社も数多く存在しています。従って、ケタ外れに大きな数値だけを“安心の目安”とするには、少なからず実感が伴わない面があるのではないかと懸念します。
◆新基準を踏まえ“生保会社も基金増強”
生命保険会社については2012年3月期に“新しい健全性基準”が導入されるのを前提に、来年3月期から新しい比率が参考値として公表される予定の為、これを受けて生保各社は、まさに“自己資本強化”に注力しているところです。但し、損保業界と比較して「相互会社」形態が多い生命保険会社においては、「基金」が株式会社の資本金に相当する“中核的な自己資本”と位置付けられますので、生保会社の基金増強の動向に注視しておくことも、当該企業の財務基盤の健全性を確認するひとつの重要な目安になると考えます。
◆金融機関の動向把握で“リスク回避”を
総じて、今、金融業界はこうした過渡期にありますが、預金者や保険契約者が「ディスクローズされた数値や格付け情報」等から当該金融機関の健全性を判断することは一つの手段として重要です。しかしながら、専門的な開示情報や詳細説明を受けないと理解し難い点は、決して少なくないと思います。
従って、金融機関の「資本金(または基金等)増強情報」の把握は勿論のこと、個々の金融機関の経営体力を見極めるには、生損保会社の“業務提携や企業統合の情報”、“既存商品の販売停止情報”や“新商品発売情報”等の動向にも注視していくことが、むしろ「開示情報」を補完する判断材料となります。そして、それがひいては預貯金や保険契約の“リスクを回避する”一助になると考えます。なぜならば、こうした動向は、金融機関の資産運用から財務基盤の健全性の確保・維持等に直結する要因となっているからに他ありません。金融機関が経営破綻してから慌てても手遅れです。今後も金融機関の動向に刮目(カツモク)し、預金者あるいは保険契約者として自己防衛態勢に臨みましょう。
※1)ブログ記事(08/9/19日付)
:『米国大手生保経営危機とわが国の生保契約者保護制度』ご参照。
※2)銀行が経営破綻した場合、預金者1人につき預金の元本1,000万円までとその利息分を保護する制度。
※3)各社は将来の保険金等の支払いに備えて責任準備金を積立てており、大災害や株価の暴落等、通常の予測を超えて発生するリスクに対応できる「支払い余力」をどのくらい有しているかを判断する行政監督上の指標の一つとする数値。この数値が200%を下回った場合は、監督当局による業務改善命令等の対象となります。
参考:金融庁公表資料等。