2009.03.04
裁判員経験者の記者会見取材協力について 【第200号】
◆裁判員へ「取材協力」の依頼
この度、「裁判員となるみなさんへ」と題するメッセージが日本新聞協会より公表(2/26)されましたが、当ブログ読者の皆様はご覧になられたでしょうか。当「メッセージ」は今年5月21日から実施される「裁判員制度」開始にあたり、裁判員を経験した人に対する記者会見による取材協力の「お願い」です。即ち、日本新聞協会は裁判員経験者の記者会見の実施を《「国民の司法参加」という制度導入の理念を定着させるうえで極めて重要》と位置付け、《立法趣旨と裁判員経験者の意向を踏まえ、国民の知る権利に資する報道機関としての使命を果たしてい》くという趣旨に基づくものです。一国民としては、これまた唐突な「お願い」に戸惑っているところですが、裁判員経験者の記者会見の実施を検討してきた新聞協会の要望に対し、裁判員制度の定着に裁判員経験者の声を伝える意義は大きいという認識が最高裁判所側から得られた結果、冒頭の「メッセージ」が公表されたという経緯です。
◆記者会見で「評議等の公言は不可」
当「メッセージ」を見て個人的に戸惑う事由は、当ブログ記事(08/12/3日付)「『裁判員候補者』の選任通知を受けられた皆様へ」において、裁判員に選任された事実をHPやブログ等で不特定多数の人に対して公開することは法律で禁じられているのでご留意ください、と述べたからです。率直に言って、実際に裁判員に選任され、判決後に記者会見による取材協力に応じた場合、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年5月28日法律第63号)」第108条(裁判員等による秘密漏示罪)及び第109条(裁判員の氏名等漏示罪)に抵触するのではないかという疑問を抱いたからです。
これについて、日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s(あらたにす)」の“新聞案内人”メンバーである田中早苗弁護士は3/2日付コラムで、《記者会見で語られることは、裁判員が職務を果たして感じた経験談に過ぎず、評議の内容は含まれない》と述べられています。詳細は当該サイト記事をご参照ください。要するに、前掲の同法第108条に「裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されていますので遵守しなければならず、従って、記者会見において評議等に係る秘密事項を公言することは毛頭できないのです。
◆メディアは「プライバシー遵守」を
これまで裁判所はじめ大学・法科大学院等で「模擬裁判」が幾度となく実施され、裁判員制度の周知に努力が図られてきましたが、例えば、自営業者であるため日常の仕事に支障をきたす等の事由に相当しないにもかかわらず、「単に裁判員に選任されても参加したくないという人」が少なくない現況から推察すると、「記者会見協力なんてとてもムリ!」等と、一蹴される懸念も否定できない現実があると思います。前述した記者会見の内容如何よりもむしろ、どれだけの人が記者会見に協力できるのかということを懸念します。記者会見に協力する裁判員に対し、例えば、メディアが所謂“芸能スクープ”のように「突っ込みインタビュー」を試みたならば、それこそ裁判員は拒絶反応を起こすかもしれません。
正式に裁判員に選任された人にとってみれば、裁判参画で社会貢献の使命を果たせる機会であり、民間裁判員の役割や意義を実感できる機会を得たと言えます。そして、記者会見に対する協力で「裁判員制度の周知」に貢献できるものと期待するところです。翻って、すでに日本新聞協会は、「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針(2008年1月16日)」で、取材・報道の在り方について協議事項を公表した訳ですから、裁判員への記者会見は元より、裁判事件に係る一連の報道姿勢は、プライバシー遵守等を基本として慎重に取り組んでいただきたいと切に要望します。
参考:(社)日本新聞協会公表資料。日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s(あらたにす)」。日本経済新聞記事。当ブログ記事(2/18日付):「裁判員候補者の皆様へ」ご参照。
【御礼】
当ビジネスブログ「人事総務部」-ブログ&リンク集-は、昨年3月末の創稿以来1年を迎え、お陰様で本日★「第200号」発信となりました。当ブログ読者皆様のご愛読の賜物と深く感謝致し厚く御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。今後も引き続きご愛読賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。